専門領域

統合失調症について

統合失調症は、地域や人種にかかわらず、100人に約1人が罹患するといわれる、決して少なくないこころ(脳)の病気の一つです。症状としては、幻聴や妄想等の『陽性症状』、意欲が無くなる、感情の動きが鈍くなる『陰性症状』のみならず、記憶や作業の能力が低下してしまう『認知機能障害』が中心的であり、長期間にわたって治療を必要とするこころ(脳)の病気です。
治療としては、薬物療法と心理社会的療法が中心となり、車の両輪のように機能します。薬物療法は、よりシンプルであり妥当性の高い適切な抗精神病薬による治療が必要とされます。心理社会的療法は、疾病教育や作業療法、家族療法、生活環境の調整、様々な困難に対する対処法を獲得するリハビリテーションが必要となります。その上で、患者様一人ひとりの目標に近づくことが治療の目標となります。

当院では、単剤化を基本姿勢とした薬物療法を提供し続けており、疾病教育やクリニカルパスの導入、また、障がい者スポーツへの参加、地域産業との連携等、患者様一人ひとりに合った地域移行や就労支援活動を行なっています。また、大阪医科大学等の高度医療機関、地域の様々な医療機関や福祉団体様にも協力して頂きながら、オーダーメイドの対応に心がけています。
「患者様」としてではなく、精神科保健福祉の「利用者様」として、共に新たな解決策を模索できるように取り組んでいます。


気分障害(うつ病)について

気分障害(うつ病)は、対人関係や社会的あるいは環境的な変化等の様々な要因から、気分が落ち込んだり、意欲が湧かなくなったり、時に気分が高まりすぎたりする、いわゆる社会生活における心身の『症候群』のようなものです。
治療としては、抗うつ薬や気分調整薬等の薬剤を中心とした薬物療法に加え、疾病教育や認知行動療法、作業療法、生活環境の調整等の心理社会的療法の両輪が中心となります。その上で、薬物療法の是非を含め、それ以外の対処方法をも患者様と相談しながら、患者様一人ひとりの目標に近づくことが治療の目標となります。

私たちは日々の生活のなかで、気分が落ち込み、眠れなくなったり、不安になったり、時に気分が高まることを経験することがあります。しかし、それのどこまでが『病気』で、どこからが『病気』ではないのか。また、薬物療法が必要なのか、そうではないのかについて専門医の適切な診断が必要です。
当院では、精神科薬物療法の専門医・指導医が複数名在籍しており、薬物療法の導入や使用方法についての妥当性を検討しつつ、薬物療法以外の対処方法も共に検討することを心がけています。
私たちは、患者様、ご家族の皆様と一緒に、よりよい解決策を見出していくお手伝いをしております。


その他の精神疾患

不眠症について

不眠症は原発性と二次性、併存する不眠症に大きく分類されます。
原発性不眠症とは、医学的、精神医学的、また環境的な原因がない睡眠障害のことです。二次性不眠症とは、身体疾患、精神障害、薬物の使用等によるものです。不眠には、入眠障害、睡眠維持障害、早朝覚醒、熟眠障害等のパターンがあり、不眠症患者様の多くは、これらを複数訴えてこられることがあります。
統合失調症や気分障害、アルコール依存症、認知症等、当院が専門に診ている疾患においても、不眠症が高頻度で見受けられます。

統合失調症や気分障害、認知症等の疾患でみられる不眠に対しては、原疾患の治療が何よりも優先されますが、アルコール依存症でみられる不眠に対しては、断酒が基本であり、睡眠導入剤等の使用は一切行っておりません。まずは、生活習慣の改善や、睡眠衛生指導を中心とした非薬物療法を行うことを基本としています。睡眠導入剤の使用に関しては、国の方針もあり、現在厳しく規制されており、当院のスタンスとして、睡眠導入剤の処方は極力行わず、必要最小限の薬剤を使用した治療を心がけています。睡眠導入剤を使用しないといけない場合でも、依存性の問題や認知機能面への影響を最小限にできる薬剤を可能な限り選択し、漫然と使用することをせず、必要な期間に限って使用し、必要性がなくなれば漸減・中止の治療方針のもと治療を進めていきます。


不安障害について

不安障害とは、不安・恐怖の異常な高まりによって、精神的に苦しみ、生活にも支障をきたすような疾患の総称です。不安障害の中には、いくつかの疾患が含まれており、パニック障害(パニック症)、社会不安障害(社交不安障害・社交恐怖)、全般性不安障害(全般不安症)、恐怖症(限局性恐怖症)、強迫性障害(強迫症状)等があります。不安障害発症の原因として、性格(心配性、完璧主義、神経質、こだわりが強い等)、ストレス、過去に大きな不安・恐怖を感じた体験、遺伝等が関与しているとされています。生物学的にみると、不安や恐怖は、脳の扁桃体と呼ばれる部位に異常が生じているとされ、不安障害の患者様では扁桃体の働きが強くなりすぎており、それにより不安に関係する神経伝達物質(セロトニンGABA等)の活性が異常を来すと考えられています。

主に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、ベンゾジアゼピン(BZ)系抗不安薬、一部の漢方薬等を中心とした薬物療法と精神療法を併用しながら治療を行っています。症状が良くなっても薬はすぐには止めず、半年から1年くらいは継続し、徐々に減らしていくようにします。患者様によっては、臨床心理士による心理テストの実施が考慮されたり、より専門性の高い心理療法が考慮されることもあります。

アルコール依存症について

アルコール依存症は、飲酒のコントロール障害を主症状とする体質の病気です。「ほどほどの飲み方ができない」、「こんな筈ではなかった」、「飲みすぎて体を悪くしてしまった」等は、飲酒のコントロール障害の結果起こってくるものです。アルコールはモルヒネやヘロイン等と同じく依存性薬物に属します。これらの薬物は一定の量を長期間使用すると脳に非可逆的な変化をもたらす性質を持っています。脳の変化が進むと量を増やさないと望む効果が出なくなり(耐性)、体から切れてくると不快な症状が出る(離脱症状)ようになります。それから逃れるためにさらにその薬物を使うことになります。アルコールは最も身近な依存性薬物でありながらその問題についてはあまり知られていないのです。

先ず体内からアルコールを抜くことから始めます。離脱症状のケアや併発する身体疾患の治療も同時に行います。アルコールによっておこる脳の変化は元に戻らない性質がありますので、再び飲酒が始まると簡単に再発してしまいます。従って、断酒を続けることがとても大切です。当院では、酒の力を借りずに生きていくための知恵や工夫についてのプログラムを用意しています。また地域の断酒会やA.A.等の自助グループにも入院中から参加することも大変重要なことと考えています。

認知症について

現在、日本では、高齢者人口が急速に増加しています。それに伴って増えている疾患が「認知症」です。加齢にともなって身体と脳も老化していきます。その老化の影響から、「脳機能が徐々に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」を「認知症」といいます。85歳をこえると3人に1人がこの疾患に罹患します。そして、この認知症の原因となる病気には様々なものがあります。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症と言われる疾患が、老年期の3大認知症と言われています。それ以外にも、慢性硬膜外血腫や甲状腺機能低下症等、他の治療可能な疾患が原因でおこる認知症もありますので、認知症が疑われる時は、一度は専門病院に受診して診断してもらうことが大切です。

この病気は、認知症の中でも最も多く、脳にアミロイドβとタウ蛋白が蓄積しておこってくると考えられています。出現する代表的な症状は、少し前の出来事が思い出せない・覚えられないという記銘力障害、時間や場所が分からないという見当識障害というものです。人格面はよく保たれており、ゆっくりと進行します。


脳にαシヌクレインというタンパク質が変性したレビー小体が蓄積することによって起こると考えられています。出現する代表的な症状例としては、以下の通りです。

認知機能の変動(ある時はしっかりしているのに、ある時は寝ぼけているということを繰り返す)
幻視(本人にしか見えない幻が見える)
パーキンソニズム(手足が震えたり、小刻みな歩行となり転倒しやすい)

脳の血管が詰まることによって脳機能が障害され発症します。血管がつまる部位によって症状に違いがありますが、意欲が低下して寝ていることが増え、怒りっぽくなることもあります。

環境を調節する等の非薬物療法、本人の不安を軽減して意欲をあげられるようなケア、そして薬物療法の3つがバランスよく行われて、はじめてうまくいくと言われています。家にこもっていると心配事ばかり考えて落ち着かず、家族に対して依存が強くなりすぎてしまいます。
家族が疲弊しているような場合には、市町村が行っている介護保険事業を利用してデイサービス等を使用することが必要となります。薬物療法としては、抗認知症薬が世界では4種類あり、日本でも使用が可能です。当院では本人の病状、環境にあわせて薬をご家族様と相談した上で処方しています。